詩を書いていたりします

時おり、詩のようなものを書いてきました。すみません。吐き出させてください。

行くな、シーモルグ

 

行くな、シーモルグ。

シーモルグよ、行くな。

貴殿は遠い異郷の霊鳥。

神秘の鳥。

鳥のスルタンとも呼ばれている。

貴殿から見れば、僕は名も無き異国人。

だが、僕は貴殿のことが決して嫌いではないぞ。

 

行くな、シーモルグ。

シーモルグよ、行くな。

僕は異国人だが、貴殿が人攫いの鳥などではないことを知っている。

貴殿はむしろ、人を育てたことがある。

貴殿はかつて、その両の翼で人を育てた。

人の子の親、その務めを果たした。

貴殿の義理の息子はやがて大人になり、

妻を迎え、

かつて子供だった者もまた親となる。

しかし貴殿の息子の嫁はお産に苦しんだ。

腹を裂いて赤子を取り出すしかない。

貴殿の息子は、親である貴殿に助けを求めた。

貴殿は翼から羽根を一枚引き抜き、息子に授ける。

花嫁の腹を裂いて赤子を取り出したら、その傷口をこの羽根で撫でなさい。

貴殿の息子はそのとおりにした。

傷口はたちまち塞がり、

嫁は、新しい母は救われた。

 

僕も人だ、シーモルグ。

遠い異国からでも、僕は貴殿に感謝と尊敬をおぼえる。

それから幾千年。

僕も妻を迎え、

僕の妻も腹を裂いた。二度も裂いた。

裂くしかなかった。

僕の妻は運良く無事にすんだ。

人の医術が貴殿の力に並ぶことができたのか。

僕の妻は今も子供らと暮らしている。

 

貴殿のおかげなのか、シーモルグ。

僕は貴殿に感謝する。

感謝するが、今また別の母親が

貴殿の助けを必要としている。

また新しい母が。

今度は人の医術も及ばないのかも

そんなことは思いたくない。

彼女らを母にしてあげたい。

彼女らに母の務めを全うさせたい。

 

行くな、シーモルグ。

シーモルグよ、行くな。

貴殿の羽根を分けてくれ。

貴殿の羽根を降らせてくれ。

大丈夫、また生えてくる。

貴殿の両の翼が丸裸になることなど、ない。

永遠にない。

 

行くな、シーモルグ。

シーモルグよ、行くな。

飛んでゆくなら、峠を越えて行け。

 

行くな、シーモルグ。

シーモルグよ、行くな。

  舞い降りろ。

新しい母たちのもとに。

 

 

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追記

 

奥さんの親戚で帝王切開をしなければならない方の容態が悪かった時に書いた詩です。

心配はするものの、何もできないと途方に暮れていたら、いつの間にか言葉を練っていました。

久しぶりの詩作。個人的には、そのきっかけとなった思い出深い詩です。

幸いにもその後、母体も双子もなんとか危機を乗り越えることができました。

シーモルグの加護があったと思いたいです。

 

シーモルグとは、イランの古典「シャー・ナーメ」に登場する神秘の鳥です。驚くことに、この古典では古代の帝王切開を描写しており、シーモルグは詩に書いたとおり重要な役目を果たしてくれます。

 

その場面を以前に読んでいたのですが、自分の奥さんが実際にその手術をする時には、すっかり忘れていました。二回ともです。

奥さんの親戚の方が大変なことになって不意に思い出し、デジャヴのような感覚に驚きました。

 

男の私には少ない想像力を搾り出すことしかできませんが、この手術にはどうしたって妊婦に非常な負担をかけます。

我が奥さんにも苦労をかけました。

さらに言えば近年、この手術が軒並み増えているとか。医術の進歩とは言え、完全に無事故とはいかないのが現実。時おり、悲しいニュース記事を見かけて、震える思いです。

 

どうか全ての母子ともに無事でありますように。