詩を書いていたりします

時おり、詩のようなものを書いてきました。すみません。吐き出させてください。

待っている兄妹

「待っているんですよ君を」
二番目の兄の担任が電話口でなじる
あいにく僕はすぐ下の弟で
二番目の兄ではない
不登校自閉症の兄
扱いにくいのは同じ血だから百も承知だが
先生に協力してやれることはありません
あの頃
二番目の兄にもまだ待ってくれる人がいたわけか

二番目の兄と同じく大人に成りきれない僕にも
一般の大人並みの時間は流れ
僕を待たずに去っていった人もたくさんあったし
僕の方から去っていったこともたくさんあった
僕がどれだけ人を待たせたのか
僕は何を待っているのか
その間
いつの間にか一番上の兄が死んで
誰も一番上の兄を待たなくなったわけでもないのに
弟はひそかに待っていたのに
赤の他人のように一番上の兄が死んで
残された弟二人は何を話したらいいのか分からない
何を話してきたのか分からない

まだ幼い子が電話をかけてくる
いつ帰るのかと
幼い子らよ 妻よ
大人に成りきれないお前たちの父は 夫は
家に帰りたくないのではない
待つのも待たれるのも下手なんだよ
それに
こんな僕でも一応男だ
手ぶらで帰るのは悔しいじゃないか
それで書いたのがこんな詩だ
手ぶらの方がましだったかなぁ

二番目の兄を待つ人は
世間にはもういないだろう
すぐ下の弟である僕でさえ
待っていないのだから
昔は そう就職したての頃ぐらいまでは
僕も二番目の兄を待っていたはずなんだが
散歩に連れ出したこともあったんだよ
誰に言い訳しているんだろう
母に? 二番目の兄に?

一番上の兄よ
一番下の妹が転職して今
牛乳工場で働いていることは知っているよね
正三角形の面が四つの牛乳パック
僕ら兄妹四人とも小学校の時に飲んだはずだ
つまりその工場には
妹を待ってくれる人がいるわけだ
どんな理由であれ少なくともそこには
もう若くもない妹だけど

一番上の兄よ覚えているか
単身赴任の父を訪ねて乗った電車の窓から
次に見える車の色を当てよう
あのゲームは兄ちゃんのアイデアだったのか
それとも兄ちゃんが学校の友達から教わったネタだったのか
あれはよかったよ
あれなら一番幼かった妹も参加できた
トンネルや大きな建物が視界を遮るけど
それらが途切れた時最初に見えるのは
何色の車かな
四人でわくわくしながら待っていたんだよ

一番上の兄よ覚えているか
兄ちゃんは洗礼名も忘れていたけど
まあ洗礼名なんて忘れてもいいから
あの時のことは覚えていてね
なんともつながりの薄い兄妹だった でも
あんな時間もあった
そのことを

                                   2017.10.25